ワインのプロフェッショナルはどんなワインが好きなのか?
普段どんなワインを飲んでいるのか?
ワインラヴァーたちの気になるところにフォーカスしたスペシャルインタビュー「プロが選ぶプライベートワイン」。
今回はカリフォルニアワインと世界のピノ・ノワールのオンラインショップ「しあわせワイン倶楽部」店長・木之下嘉明さんにお話を伺いました。
PROFILE 木之下嘉明
株式会社ワインラバーズ代表取締役
日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート / 日本ソムリエ協会正会員
東京都狛江市出身。ワインが好きすぎて脱サラし、2011年9月、カリフォルニアワインと世界のピノ・ノワールに特化したオンラインショップ「しあわせワイン倶楽部」をオープンさせる。 自社サイト、楽天市場、yahooショッピング、Amazon の4店舗の他、姉妹店「しあわせ日本ワイン」の運営も行っている。
しあわせワイン倶楽部オープン秘話
― まずはお店(しあわせワイン倶楽部)を始められたきっかけを教えていただけますか。
もともとは10年間くらい財務とか会計の仕事をしていたんですね。なぜワインの仕事をすることになったのかというと、単純にワインが好きになりすぎて、妻と自分たちでやろう! と。まったくモノも売ったことのない状態で、仕事を辞めまして独立した…… という感じですね。当初はネットの知識もまったくなかったので、勢いで始めた経緯があります。
仕事が終わったら酒屋さんに寄って、始めは1,000円くらいのワイン1本買って飲むというのを繰り返しているうちに、カリフォルニアの日差しをたっぷり浴びた陽気で果実味豊か、渋みも穏やかな開放的なカリフォルニアワインの味わいが自分たちの気質にあっていたので、ウチのお店はカリフォルニアワインと世界のピノ・ノワールの専門店にしました。
僕、ワインショップを巡るのが好きなんですけれど、ワインショップを巡っていたときにカリフォルニアワインって2列、2棚くらいしかないんですよ。どこへ行っても。
― はい。
今は若干増えてきてはいますけど、当時って2列くらいしかなくて、2週間くらい飲むと全部終わっちゃう感じで、それで他のショップ行くっていうのをやっていて。
で、それならもしかしたら自分たちがやる意味があるんじゃないかなと思って始めたのが経緯ですね。
― 前職とまったく違うお仕事を始められて、なにかご苦労されたことや想定外のことなどありましたか。
ありすぎるくらい、あるんですけど(笑)
まず独立して18ヵ月間、無収入になったんですよね。本当にだから、朝から晩まで仕事をしても注文も入らないという状況がずっと続いていて……。
(前職では)財務担当者として会社の資金調達とかもよくやっていたんですよ。金融機関に事業計画書を持っていって、融資のお願いをしたりとか。そういうことをずっとやっていたので、多少なり自信はあったんですけど、(独立してから)金融機関に借りにいったら、数字の根拠がないじゃん…… みたいにいわれて。
当たり前なんですけど、モノを売ったことがないのに「ワインが売れる」みたいな事業計画書を持っていっても「意味ないよね、この計画」みたいにいわれて。まずお金が借りられなかったんですよね。
― はい。
で、いろんなところ回って、全部断られて、もういきなり終了みたいになったんですけど、最後の最後ですごくいい人に出会えて、事業計画もう一回作り直してみましょうと金融機関の人にいわれて、しっかりしたものに作り直して最後の最後に通って(お金が)借りられて、やっとスタートできたというのがありますね。
ほんと始めはまったく注文も入らなかったですし、それが1年とか続いて、まあ大変でしたね、その期間は。
― それでも続けられたのは、どうしてもやりたいこと、目標のひとつだったからなのでしょうか。 そのあいだは貯金で生活されていたということですよね?
あのー、貯金も全部資本金につぎ込んでいたので、ほとんど持っていなかったですよ。はじめに2011年に(会社を)立ち上げる前に、妻とふたりでカフェに行って、ワインを飲みながら事業計画を決めたんですけどそこからお金を貯めだしたんですよ。
そのときに貯めたお金、手元のお金がなくなったら終わりという状態で、(そんななか)どんどんなくなっていくので、身の回りのものは全部売りましたね。
妻が結婚指輪を売ろうといったときはそれだけはやめようっていって売らなかったんですけど(笑)
― ドラマじゃないですか!(笑)
でも、ほんともう身の回りのものは全部売りましたね。食材も夜にスーパーに行って、安くなっているところを買いましたし、外食も僕の誕生日と妻の誕生日の年に2回だけでしたし、友人の誘いも全部断ってという感じでしたね。でもやっぱり好きだったので(続けられました)。
― そんな状態から、なにがきっかけでお店が軌道に乗っていったのでしょうか。
ブレイクスルーのポイントはいくつかあるんですけど、簡単にいうとお客様の好きなワインをしっかりと紹介したということですかね。
今はやっていないんですけど、一番始めはオリジナルのワインがあったほうがいいだろうということで、自社輸入から始めたんですね。
日本に入っていないワインを扱ったりしていたんですけど、世の中のマーケットでみると、カリフォルニアは白は圧倒的にシャルドネ、赤はカベルネ・ソーヴィニョンなんですよ。
でも自社輸入したときって、両方ともほとんど入れなかったんですよね。世の中が好きなものより、自分が好きなものだけ輸入していたっていう。そういったところの勉強も不十分だったと思いますし。
そういったなかなか商品が売れないときに、藁にもすがる思いで某ワインスクール主催の一般の方にも公開していたカリフォルニアワインセミナーに行ったんですよ。
セミナーのテイスティングで、5,000円のワインと2,000円のワインがあったんですけど、その2,000円のワインがおいしくて「これは売れるんじゃないか」と思って、すぐそこ(輸入元)に電話したんですけど、大きい会社だったので取引できなかったんですよ。
できなかったんですけど…… 情熱を持って説明したのがよかったのか、たまたまタイミングがよかったのがわからないんですけど、担当の人がいい人で、上司に掛け合ってくれて取り引きできるようになったんですよ。それがブレイクスルーのポイントでしたね。
実はそのワインが2,000円だったんですけど、円高の影響とか大きい会社(輸入元)だったので、スケールメリットがあってめちゃめちゃ安く入ってきていて、実際は(日本の)輸入元がふたつあったんですけど、百貨店大手の高島屋で5,500円くらいで売っているワインだったんですよ。
それをウチが2,000円くらいで販売できるっていうことになって、そこから売れるようになりましたね。
そのワインを買うお客様が増えて、集中して販売するうちに、「ここのワインおいしいね、他のワインも飲んでみようかな」という方が増えてきてくれて広がっていきました。それが(独立してから)1年半後くらいの話ですね。
おすすめのカリフォルニアワイン3本
シックス・エイト・ナイン ”レッド” ナパヴァレー
― それでは、おすすめのワインを選んでいただいたポイントとともにご紹介いただけますか。
カリフォルニアワインを知る上でもっとも大事な産地がナパ・ヴァレーなんですけど、産地の良さをわかりやすく表しているので選びました。
ワインの味わいを左右するのって、もちろんワインそのものの味わいもそうなんですけど、ラベルとか世界観も大きく影響しているなって思うんですよね。
それがこの「シックス・エイト・ナイン」のいいところにもつながっていて、ラベルの感じもカリフォルニアらしくていいし、なんか気軽に難しいことを考えないで味わいだけを楽しめるっていうので、選んだ感じですよね。
― カリフォルニアらしいラベルというのはどういったことでしょうか?
まあ、お城もないですし(笑)素朴な感じでもないですし、世界観をそのまま出しているというか、そこがいかにもアメリカらしい感じがします。(ヨーロッパのワインのラベルには伝統を感じるけれど)伝統というよりは、これを飲んで! みたいな。
― アメリカのワインはブレンドが特徴でもあると思うのですが、このワインも何品種かブレンドされていますが、味わいはどういった感じでしょうか。
ブレンドすることによって、各品種が補完しあって、カリフォルニアらしい濃厚でやわらかくて飲みやすいみたいな味わいになっていますね。
お肉とかバーベキューとか難しく考えずに飲むのにぴったりなんじゃないかなと思いますね。
ブレッド&バター シャルドネ カリフォルニア
これは本当に「ブレッド&バター」の名前の通りで、パンみたいな香ばしさがあって、バターのような濃密さがある、そういうワインです。要は樽の効いている濃厚なカリフォルニアのシャルドネですね。
― 木之下さまご自身はこのワインのどういったところがお好きですか。
このワインに関していうと、濃厚でインパクトのある味わいが好きですね。
僕はいろいろなワインが好きで、繊細で透明感のあるものから、なんだコレという濃厚なワインまでなんでも好きなので、けっこう気分によって変えるんですよ。
基本的には自宅でリラックスした状態で飲むことを前提としているんですけど、その日の気分とか、その日のお料理とかに合わせてワインを変えるんですね。
で、ちょっと濃厚なインパクトのあるワインを飲みたい…… という気分のときは、この「ブレッド&バター」がぴったりですね。
― (ブレッド&バターを)どんなお料理に今まで合わせましたか?
やっぱりパンとバターですかね(笑)
バターを使っているお料理、フライとかもいいですし、ムニエルとかは抜群に合いますね。
― しあわせワイン倶楽部さんのサイトで商品ページを拝見しましたが、説明がすごく印象的でした「アルコール・バイ・ボリュームのポートフォリオのひとつ」って。 もうこれは想像するにすごい濃さなんだろうなと。
そうですね。ほんともうそのまんま。だからイメージと味わいがリンクしているのも人気の理由なんじゃないかなと思いますね。「ブレッド&バター」って書いてあって飲んだらほんとその通りだね、みたいな。
ワインってハズレじゃないですけど、自分の好みじゃないなっていうこともけっこうあると思うんで、当たり前ですけどそういうふうには外したくないっていう思いも皆様あるので、そこが売れる(1)理由のひとつかなという気はしますね。
(1) しあわせワイン倶楽部で最も人気のある白ワイン
カレラ ライアン ピノノワール
― 最後に思い入れのあるワインということでおすすめいただいたこのワインについてお聞かせください。
カレラは僕がワインの仕事を始めるきっかけになったようなワインなんですよ。
― はい。
(ワイン)愛好家からはじまったときに、当時テレビで紹介されていたんですよ。確か「ロマネ・コンティ」の100分の1で買えるという触れ込みで。
カリフォルニアのロマネ・コンティといわれているワインなんですけど、ロマネ・コンティの苗木を持ってきたとか逸話もあるんですけど…… それをテレビでみて「絶対飲みたい!」ってなりまして、すぐに酒屋に行ったんですよ。でも売り切れになっていて、買えなかったんですよ。
それがテレビにも出ていたカレラ「ジェンセン」だったんですけど、他のキュヴェならありますっていわれて、そのときに買ったのがカレラの「ライアン」だったんですね。
まあ、あのカレラって全部おいしくて、基本的に畑は違いますけど、一貫した味わいがあってカレラの良さっていうのはどのワインでもわかるんですね。厳密にいうと少しの違いはありますけれど。
カレラの「ライアン」を飲んだときに衝撃を受けて、当時6,000円くらいだったんですけど、「なんだコレ!?」みたいになって、クリスマスに開けたんですけど、おいしすぎたので、翌年のクリスマスにもう1回飲んだんですよ。
1番初めっておいしいので、もう1回飲んだらどうなんだろうって妻とふたりで話していて、もう1回飲んだら同じ衝撃があったんですよ。
― ああ、すごいですね。
すごいですよね。なかなかそういうワインって少ないんで。それがワインショップを始めるきっかけでした。
― こういったワインをたくさんの人と共有したい、広めたいな…… ということでしょうか。
そうですね。この感動を他の人にも知ってほしいっていう感じですね。
― カレラの良さを言葉で表すとしたら、どういった感じでしょうか。
カレラは「ジェンセン」とか今回の「ライアン」のように自社畑のブドウから造ったワインの他に、買いブドウの「セントラル・コースト」とか広域のものがあるんですね。
広域のほうは濃厚だけどチャーミング味わいで、よりカリフォルニアらしいなって感じるんですけど。
自社畑って、もうお亡くなりになられたんですけど、ジョシュ・ジェンセンさんが2年くらいかけて探し求めた場所で、すごい標高高いとこなんですね。
彼は斜面で石灰質の場所がいいワインを生むってずっとカリフォルニア中を探し求めたんですよ。で、石灰質の土壌をみつけて、切り開いていったんですよ。
カレラって石灰質由来の独特のミネラル感がある感じで、濃いワインだけれども(標高が高い畑から収穫したブドウなので)酸も保たれている、(ジョシュが)DRC(2) で修業していたので、同じ全房発酵で造るので、全房由来のスパイシーさもある…… この3つが大きなところですかね。
(2) ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ。フランス・ブルゴーニュ地方の生産者で世界で最も高価なワインとして知られるロマネ・コンティの造り手。
新しい世界を知ることが楽しいプライベートでのワインの買い方
― では、その他の質問に移らせていただきたいのですが、先ほどワインショップを巡るのがお好きだとお聞きしましたが、ご自身がプライベートでワインを購入するときはどういった基準でワインを選んでいますか。
お店(ワインショップ)に行って好きなことっていうと、やっぱり自分の知らない世界を教えてくれるところなんで、普段自分が選ばないようなワインをお店の人に「なんかおすすめありますか? どんなのでも好きです。赤でも白でも、濃いのでも薄いのでも」っていって何種類か教えてもらいます。そのなかから直感で決めますね。ビビッときたもの。
― お店に行かれるときは、自分の知らない(ワインの)世界を知りたいということで、店員さんのおすすめのなかから選ぶということですね。もしおすすめに自分が知っているワインが入っていたら、あえてそのワインは選ばない感じでしょうか。
あえてそれは選ばないですね。もし3本くらい買ってかえるなら、ひとつは自分が飲みたいだろなというものを買って帰りますけど、残り2本はどんなんでもいいから買おう! ってなりますね(笑)
― そのなかで最近、新しい世界を知ってしまった…… みたいなワインはございますか。
教えてもらったなかでよかったのは、スロバキアの「モノ・リポヴィナ」。 辛口で透明感のある白ワインでおいしかったですね。
海で飲んだんですけど、海の塩っ気でちょっと口のなかがしょっぱいじゃないですか。で、ちょっと甘みがあるのをキンキンに冷やしたの飲んだら最高でしたね。
ショップ運営で大切にしていること「手渡しのぬくもりを届けたい」
― 余談ですが、日本ワインのショップも運営されてますよね。
姉妹店ですね。自分たちはワイン文化を定着させたいという思いをもって(ショップ運営を)やっているので、日本ワインの良さ、自国のワインを飲めるような文化を作っていかないとワイン文化は定着しない、自分たちの夢の実現はありえないなと思って、日本ワインのショップも持っています。
― そうだったんですね。実はワインファンの前身メディア(今晩わいん)で日本ワインを紹介する機会がありまして、「しあわせ日本ワイン」でワインを購入させていただいたのが、ワインラバーズさんとの最初の出合いだったんですよ。
そのときにすごく丁寧なショップさんだなと思いまして、特に印象に残ったのが、A4の半分くらいの紙にワインの説明が書かれたテイスティング・ノートで。他にもコルクのリサイクルやってます…… とかの同梱物なんですけど。
お客様が購入して、送って終わり! ではなく、コミュニケーションをとろうとされている姿勢が見えてとても印象的でした。どういった経緯でそういった内容の同梱物を入れようということになったのでしょうか。
そうですね。根本としては(購入いただいたお客様に)よりワインを楽しんでほしいからということなんですけれど。
実はショップを始める前に僕と妻、自分たちでああいうのを作っていたんですよ。それを形にしたのが今のテイスティング・ノートなんですね。
― そうなんですね。
やっぱりワインって情報があればあるほど、おいしくも感じやすいですし、あとは合わせるお料理もある程度の方向性もわかりますし、単純に好きな方ってメモをとりたいっていう方もいらっしゃるので、そういうのをひとつずつやりたいなという思いをずっと持っていて、創業当時からやっていますね。
― 今は(お店も)お忙しいと思うのですが、それでも変わらず続けているって素晴らしいですね!
わたしはあのテイスティング・ノートをみたときにちょっと感動してしまって。(販売終了などで)商品ページがなくなってしまうと、見返したりできなくなってしまうので、紙でいただけるとそれがラベルと同じようにコレクションじゃないですけれど、とっておけるし、それこそその紙(テイスティング・ノート)に自分の感じたことを書き留めておけるので、うれしいなと思いました。
同梱物を通して、通販でもお客様とのコミュニケーションをとられているなと感じたのですが、そのあたりはなにか意識されていますか?
本当におっしゃる通りで、お客様と深く長いお付き合いをしたいというのもありますし、通販は直接手渡しすることができないので、直接手渡ししているようなぬくもり、人の気配とかを(ワインと)一緒に届けたいと思っているんですよ。
なぜなら口に入れるものだし、自分たちがしっかりと最後まで責任を持ってお客様のもとに届けたいという思いがあるので、ワインは全部自分たちの倉庫で温度管理していますし、ラベルをラップやわら半紙で巻いたりしているんですけれど、それも手作業で人の気配を一緒にお届けして、ふれあいを大事にしたいなというふうには思っていますね。それを形にしています。
インタビュー終えて
「ワインで人生が180度変わった」という木之下さん。まったく注文が入らなかった時期は胃の痛い毎日だったともおっしゃっていました。
独立の背中を押してくれた奥様をはじめ、最後の最後で味方になってくれる人が現れたり、父親の協力を得ることができたり…… とお店が軌道に乗るまでには努力と情熱と人を惹きつける力、すべてが実を結んだようなドラマチックなストーリーがありました。
そんなしあわせワイン倶楽部さんで筆者もしあわせなワイン購入を経験したひとりです。
読みごたえのある同梱物や安心感のある梱包、端々にワイン愛を感じることができるので、ワインを心ゆくまで楽しみたい人にぴったりのショップさんです!
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