ご紹介するのは、北海道ワインの専門店で、平川ワイナリーのアンテナショップでもある、東京・広尾にあるn43°さん。
店名の「n43°」とは北緯43度のこと。日本では札幌市あたりを指すようですが、歌のタイトルやお店の名前など北海道を表すときによく使われている印象です。
今回はお店の紹介だけではなく、北海道のワイン、ひいては地域活性化についての想いまでお話をたっぷり伺うことができました。 ぜひ最後までご覧ください!
n43°(東京・広尾)
広尾でワインというと、ワイン好きの方の多くは「エノテカ 本店」がぱっと思い浮かぶのではないでしょうか。 また駅前には「ヴィノスやまざき 広尾店」があり、ほかにもナチュラルワイン専門のブティックや今年10月にオープンしたばかりの「THE CELLAR Hiroo」など、とにかくワインショップがひしめくエリア。
そんな広尾にお店を構えられた理由、お店をオープンするに至った経緯をn43°を運営する株式会社RERA WORKSの代表取締役 佐藤大行さん(以下:佐藤)に伺ってみました。
佐藤: そもそもの話なんですけれど、ワインにはそんなに詳しくはなかったんですね。 オリエンタルランド(1) にいたときに事業全体の責任者をやってまして、その関係上、北海道に行く機会がたくさんあって、その流れのなかで道庁のほうから「ちょっとワイナリーなんかもどうですかね」というお話をいただいて、検討した経緯があって。
― はい。
佐藤: それが2015年だったんですよ。 平川ワイナリーが開設されたのが2015年なので、ちょうどそのときに余市でお会いして。
その後、わたしもいろいろあって会社(1) を辞めることにして、そのときに平川さんに挨拶に行ったんですね。 彼とはなんかできそうかもしれないなと思って。 そのときに彼のほうからもう少しワインを広めていきたいと。
彼のワインってどちらかというとレストラン中心に卸していて、三ツ星クラスのお店とか、JALの国際線ファーストクラスに採用されたりとか、そういうところに出ているというのはそのときにはもう知っていたんですね。
で、もうちょっと戦略的といったら変ですけど、まあ彼のブランド価値を、北海道のワイン全体のブランド価値を上げる意味でも、ワインのことに厳しい人たちがいるエリアのほうが、認めてもらえるのではないかなということで、いろいろ場所は検討したんですけれども広尾にしました。
この辺はエノテカさんの本店があったり、ケンゾー (2) さんがあったり、周りには三ツ星レストランがたくさんあったり、可処分所得の高い人たちが住んでいて、やっぱりそういう人たちから認めてもらえないものだとなんか意味がないんじゃないかとちょっと思いまして。 であれば、一番厳しいところで評価されれば本物かなというふうには思いましたね。
― それはあえて激戦区を選ばれたということでしょうか。
佐藤: はい、そうです。(ワインは)嗜好品なので、毎日せいぜい飲めても1本じゃないですか。そうするとその選択肢のなかに入れていただくということがすごく難しいと思うんですよね。
(この辺は)感度の高い方や発信力がある方たちもたくさん住んでらっしゃいますので、気にいっていただければ口コミでも広がったり、マーケティング効果はあるんじゃないかなとちょっと思っています。
― 実際に来店されるお客さまたちはどういった方たちなんでしょうか。
佐藤: そうですね。 中心は40代、50代、60代のワイン好きの方で、インテリジェンスな方が多いですね。 地元の方が6割くらい。 あとはわざわざ探してこられる方もけっこういらっしゃいますね。
― 逆にオンラインショップではどこの方からのご注文が多いとかありますか。
佐藤: やっぱり東京が一番多いですけれど、意外と多いのが北海道の方からですね。
― 北海道広いので……。
佐藤: そうなんです。 北海道で手に入りづらいんだなあというのがすごくわかりましたね。 札幌とかそういうところでは手に入るんでしょうけど、それ以外の場所ですね。
わたしも仕事柄月に2~3回くらい北海道に行くんですけれど、確かに釧路とかで平川のワインは手に入らないですし。
あとは関西、名古屋、四国とかも多いですね。 九州、沖縄とかもたまにありますし。 割とやっぱり日本全国…… ワイン産地ではないところからの注文が多いですね。 山梨とか長野からは少ないです。
― 余市が(北海道のワインの)一大産地だとは思うのですが、平川さんをご紹介されたので、余市を中心にラインナップしているということでしょうか。
佐藤: 平川のワインだけのショップを最初考えたんですけど、当時はまだこれだけのもの(ラインナップ)がなくて、それだと厳しいのでもう少し北海道のワイナリーを揃えようということで、そのなかでも、製造方法を含めて味わいがあまり(平川ワイナリーと)かぶらないものにしようと。
リタファームさんだとか余市だとキャメルファームワイナリーさんだとかを今扱っています。 ただそこには限らず、北海道全域のほうが、僕は道庁のアドバイザーをやっているので、わたしの仕事に対する親和性が強いと思ったので、少しずつお手紙書いたりとか、行ってみたりして扱っているという状況です。
今、扱っているワイナリーが13くらいですけど、(お店も小さいので)これ以上は増やせないというのが現状ですかね。ワイナリーのワインを絞って数増やせばできるんですけど、お客様と接点があることを考えると、ひとつのワイナリーのものを多品種扱って、ワイナリーの代わりとしてワインを販売したほうが自分にはあっているのかなということで、平川ワイナリーのは全商品置いてありますし、キャメルファームワイナリーさんのも全部ありますし、なるべくそういうふうにはしています。
(1) 株式会社オリエンタルランド。佐藤さんの前職で、東京ディズニーリゾートを運営する会社としても有名
(2) ケンゾー エステイト ワイナリー 広尾店
北海道に精通したスタッフがワインだけでなく北海道の情報も提供
― 佐藤さんご自身は北海道のご出身では・・・?
佐藤: いやー、全然違うんですよ。 東京出身で。 北海道に引きずり込まれちゃったたというか(笑)
前職のときに農園を作ったんですけど、辞めるかどうか悩んでいたときにポロっといったらありがたいことに北海道からいろいろとオファーがきまして。
(前職の)ディズニーのほうは36年くらいやっていたので、やり切った感もありまして、じゃあもういいかなって。 翌年からコロナになっちゃいましたけど、そういうのでもちょうどよかったといったら怒られちゃいますけど(笑)
― 転換期というか。
佐藤: そうですね。 タイミングよく社会環境と自分の環境の変化が重なって。 そのときに北海道からお声がけがあって、だったら全部北海道繋がりで、いいんじゃないかなと思って、平川さんに話して、じゃあワインとコンサルトをやっていこうというかたちで今活動しています。
― ちょっと気になったのが、(会社の)Webサイトに「ワインだけでなく北海道の情報の提供を目的とし北海道コミュニティの新たなスタイルの拠点」とあったのですが、これはどういったことでしょうか。
佐藤: 北海道ワインという切り口で皆さん(お店に)こられるんですけど、実際にはなんか、「オーべジュをやりたい」だとか、それから「北海道の食材を使ってビジネスをやりたい」とかそういう人がけっこうこられるんですよ。
― ご相談に?
佐藤: くるんですよ。 じゃあこういう人を繋げますよとか、じゃあ北海道庁のこういう方紹介するので、ちょっとお話してみませんかとか。 繋げたり、自分のお手伝いをしてもらったり、そんなことができる環境になればいいなと思っていたら本当になってきたので。
やっぱり、北海道のワインの魅力だけを伝えるのは、それはそれでいいことだとは思いますけど、歴史も含めてちゃんとお伝えすることだったり、今の課題だったり、そういうことも含めて共有していただいたほうが、もう少し地産地消ということに対しての理解も深まると思うんですよね。 そういうお手伝いもできたらなという思いはすごくあります。
もうふたりスタッフがいるんですけれど、ひとりは女性で北海道の北見出身の方でソムリエの資格を持っていて、「地球の歩き方」のフランス編を編集した人ですね。 フランスに1年住んでいたことがあって。
あともうひとりはもともとわたしの部下で、一緒に北海道の町づくりなんかも彼とやっています。
ですから、そういった意味ではふたりとも北海道にすごく理解があるので、なにか発信することによって、ただの北海道ワインというカテゴリーではなくて、北海道の風土とかいろんなものをきちんとお伝えしながら、より理解を深めていただいて、好きになっていただくということのほうがいいのかなと思いますね。
平川ワイナリー おすすめのワイン
― おすすめのワインを教えていただいてもいいですか。
佐藤: そうですね。 ここ(お店)は平川ワイナリーのショップなので、これがノートル・シエクルといって、彼のフラッグシップワインですね。 名前は「我々の時代」っていう意味になります。
これが彼の代表的なワインで品種は明かしていないので、いえないんですけど、この品種を北海道で飲んで、さらに自分でブドウを栽培してみて、彼(平川氏)はすごく可能性が高いと。 なので、彼の思いがすごく詰まっているワインなので、本当にすごくおいしいですね。 キレイな酸とボディもしっかりしているので、前菜とか魚だけではなくて、肉系にもすごく合わせやすい。 牛肉とかはちょっとアレですけど(笑)
赤だったら、レスプリっていう、これも品種は申しあげられないのですが、日本で(この品種からワインを)造っているのは数軒しかないと思います。
黒ブドウなんですけど、手で除梗していて、ブルゴーニュっぽい仕上げを目指して造っています。
ですから果実味たっぷりというよりは、少しシルキーでエレガントな感じですね。 食事に合わせていただくことを前提としているので、ワインだけだとちょっと物足りないかな…… という雰囲気はあるんですけど、でも料理を食べているとするするする飲めちゃうワインですね。
― こちらはお食事はなにと合わせていらっしゃるんですか。
佐藤: あんまりソースなどを使っていない肉ですかね。 塩、コショウで食べるような、素材を生かしたようなものはすごく合うと思いますね。
あとはロゼなんかもエレガントな感じですかね。 彼はフランスにいたので、フランスのロゼが好きなんですけど、日本でもおいしいロゼを造りたいということで。
どちらかというと酸が強いので、中華とかエスニック系の料理にも合わせやすい感じがします。 ちょっとベリー系、ストロベリーの香りがしたりとかキイチゴの酸味があったりそういう感じになっています。
佐藤: あとは彼が一番好きだっていう…… 飲んでみます?
― (白ワインを勧められて)あ、ありがとうございます。 これはなんてお読みするんですか?
佐藤: ポンセ「思考」っていう意味ですね。
― すっごい飲みやすいです!
佐藤: 飲みやすいですよね。 食前酒に前菜にばっちり合います。ちょっと旨みもあって、けっこうこれは人気ですね。
― このワインが平川さんご自身も気に入ってらっしゃるということですか。
佐藤: そうですね。(品種は明かせませんが)好きな品種ということです。
― (1本目にご紹介いただいたノートル・シエクルの品種のように)北海道にきて、好きになった品種なんですか?
佐藤: いや、向こう(フランス)でも好きだったとはいってましたね。
(説明を)そのまま読むとですけど、白ブドウ全房でプレス掛けして、果汁をステンレスタンクで発酵させ、MLFを行わず、澱と接触させながら4ヵ月間熟成。シャブリに似た柑橘系とフリンティなアロマが特徴的。心地よくキレイな酸がまっすぐに伸びている…… といっていますね。
彼自身もともとソムリエなので、幅広い食との相性を意識して造ってますね。
常に食との相性を意識してワインを造っているので、ワインだけおいしいのはダメだという彼の哲学みたいなのはなんかありますね。 美食を大事にしていますね。
清らかさを感じる2種の白ワインを試飲
佐藤: 次は蘭越いとう農園の「カミサトブラン」っていう白ワインですね。
― この蘭越(らんこし)というのは地名でしょうか?
佐藤: 地名ですね。 ニセコのちょっと脇ら辺。
― こちらはブレンドでしたよね。ソーヴィニヨン・ブラン多めの。
佐藤: 他にも、ピノ・ブラン、オーセロワ、ゲヴュルツですね。 10Rワイナリーが醸造をしていますね。 ブルースさんというアメリカ人の方がやっている醸造専門のワイナリーですね。 なので、委託醸造が多いです。
醸造技術って難しいじゃないですか。 なので、ブルースさんのところで勉強して、やがて独立される方も多いですよ。
― 土地として、ニセコの近くというのはワイン産業としてはどうですか?
佐藤: 10Rワイナリーさんは岩見沢(札幌の北のほう)なんですけど、蘭越いとう農園がニセコの近くで。 羊蹄山とかの伏流水があって、水はすごくいいところです。 北海道は全体的に水はいいですけれど、名水が湧くところです。 余市もそうなんですけど、あっちのほうはもともと果実の産地なんですよね、北海道でも。 リンゴやサクランボ、洋ナシだとか。
冬は寒くて雪が降って、夏は天気が良くて、一方で日本海からミネラルも、朝と昼の温度の高低差がすごくあるので、果実がよくできて、甘くなりやすいんですよね。
(ワインは)どうですか?
― ちょっと青っぽいのが(いい意味で)引っかかってくれて印象に残るというか、面白いですね。
佐藤: 面白いですよね。 寝かせても面白いんじゃないかっていってました。 10Rワイナリーさんブレンドにするのが上手なんですよ。
これはタキザワワイナリーの白「タキザワブラン」で、シャルドネとソーヴィニヨンですね。
― インスタでもご紹介してくださっていましたよね。 こういうシンプルなラベルも素敵ですよね。(裏ラベルに)すごいですね、収穫年の天候のことも書いてくださっているんですね。
佐藤: タキザワさんはもともと札幌でコーヒーチェーン店をやってた方で、60歳になった当時にワイナリーをやりたいといって、三笠でブドウ栽培を始めたんですね。
三笠というのはかつての炭鉱町なんですよ。 炭鉱がなくなったら住人がいなくなって、まあそれで廃農家があって、そこの土地を10ヘクタールくらい買ったっていってましたかね。 南斜面のすごくいいところですね。 そこからワイナリーを造って。 北海道の自然派ワインをつくってきた人ですね、無農薬で。
― 炭鉱だった町でワイン造りをはじめて、いいですね、なんか希望がありますよね。
佐藤: そうですね。 タキザワさんが始めてから、山﨑ワイナリーさんができたり、その近くでもともとワイン醸造をしてた人がヴィンヤードを造ったりとどんどん広がってはいますよね。
(このワイン)どうですか?
― はい、あの…… 事前にインスタグラムの説明を読ませていただいていて、「樽香が~」とあったので、個人的に白ワインはピュアな感じが好きなので、「樽香かぁ…… 」と思っていたのですが、とてもエレガントで全然イヤな感じがしないです。 別に樽香好きじゃない人でも、ニュアンスとして楽しめるというか。 あとは、色(外観)もキレイだし、やっぱり北海道のワインは本当に澄んでいるなあと実感しています。
北海道のワインを軸に循環を意識した取り組みを
― 最後にお店でもいいですし、手掛けていらっしゃる北海道のプロジェクトに関してでもいいのですが、今後の展望があればお聞かせいただけますか。
佐藤: 色々視点はいろいろあると思うんですけど。 まずは北海道はいいってみんな思ってはいるんですけど、多分。 旅行に行きたいところで1番は北海道ですし、北海道展やれば必ず人は来るし。
でもやっぱり、大事なのはクオリティだと思うので、もっとクオリティを維持しつつ向上しつつ発展させてくってことがすごく大事だと思うんですよね。
なんでそんなこと思ってるかって、僕、ずっとディズニーにいて、やっぱりクオリティをすごく意識して仕事してきたんですよ。 サービスのクオリティだったり、製品のクオリティだったり、やっぱりそれが最終的にはああやって、30何年間続いて、40年近くなって、まあ、3億人の人も来てくれてパークが育ったっていうのは事実なので、それをやっぱりやり続けることがすごく大変だし、でもそれやらないと多分、一時的なブームで全部終わわっちゃうんだと思うんですよね。
こういうワインなんかも一時的なブームで終わらさないためには、やっぱりみんながそれぞれ切磋琢磨しながらって、技術を上げて、製品価値をどんどん上げていくっていうことのきっかけ作りをこうやって東京でやることによって、消費者の声もきちんと返して、ちゃんと循環させて、経済が大きく発展してくっていうことが、多分1番望んでることだと思うんですよね。
それを含めてその地方創生っていうか、そういう簡単な言葉じゃなくて、やっぱりその私が支援してる自治体って、人口が7000人だったり、2500人だったり、もう下手するとこのまんま、10年20年先にはなくなる可能性もある自治体だったりするわけですね。
でも維持していくためには、経済的な循環をちゃんと作んないと、やっぱり維持できないですよね。 経済的な循環ができれば人の循環もできるので、その仕組みをどうやって作るかってことなんですね。
そのひとつのツールがワインだと僕は思っているので。 共通項にワインがあるといろんな人と繋がりが増えるってのは、これは自分でやっててわかったことですね。
取材後記
今回はワインのご紹介とあわせて、ワインを通した北海道の地域活性化についてのお話を聞かせいただき大変貴重なインタビューになりました。
n43°は北海道のワインの魅力が詰まったワインブティックといった感じで、お取り扱いワイナリーは13とのことでしたが、筆者個人的にはどのワインを買おうか迷ってしまうほど、選びがたかったです・・・!
少数しか入荷されないレアなワインも多いので、お店に訪れたときに購入できるワインはまさに巡り合わせなのかもしれません。
また、コンサルタントとして産業全体のことも考えると、東京でワインを飲んで、そのワインを飲んだということをきっかけに北海道へ行っていただき、さらにそこにお金が落ちるという仕組みを作ったほうがいいと佐藤さんはいいます。
地方ものを東京へ持ってきて体験していただき、違うかたちで、ふるさと納税でも、旅行に行くのでもいい、循環をもっと意識することも地方としては必要かなと思っているそうです。
せっかくいいもの作ってもそのいいもの作った集落がなくなってしまったら、結局は持続できないので、そういう経済循環をちゃんと作ることを意識することが、人口もどんどん減っていく今の日本のなかで、求められていることではないかと語ってくださいました。
そんな地域活性化のひとつとして、ワインがある…… それはワインの造り手をリスペクトしているわたしたちワイン好きや日本ワインファンの皆さまにとってもいいお話だなと思いました。
地方の造り手と消費者が「ワインでつながる」、そんな輪が今後も広がり続けて、北海道のワインや日本ワイン全体がますます盛り上がってくれればうれしいですね!
■ 「n43°」公式オンラインショップはこちら
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